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慢性腎臓病(CKD) 2025.07.07 NEW
「ダイエットで腎臓も守れる?肥満と腎機能の改善の可能性」
肥満が腎臓に与える影響
肥満は腎臓にさまざまな負担をかけ、慢性腎臓病(CKD)のリスクを高めます。特に、肥満関連腎臓病という病態があり、肥満そのものが腎機能低下の原因となることが分かっています。
肥満関連腎症(Obesity-related Glomerulopathy: ORG)
肥満そのものが原因となって引き起こされる腎臓病の一種で、近年、肥満の増加に伴い世界的にその発症数が増加しています。単に肥満に合併する糖尿病性腎症や高血圧性腎症とは異なり、肥満固有の腎臓への影響によって発症するのが特徴です。
肥満関連腎症のメカニズム
肥満が腎臓に与える影響は多岐にわたり、そのメカニズムは複雑ですが、主なものとして以下の点が挙げられます。
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1.糸球体過剰濾過と糸球体肥大
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◦肥満者は、増加した体組織の代謝要求に応えるため、腎臓の血流量と糸球体濾過量が増加します。これにより、個々の糸球体にかかる負担が増大し、「糸球体過剰濾過」と呼ばれる状態になります。
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◦この過剰濾過が続くと、糸球体が異常に大きくなる「糸球体肥大」が起こります。これは、糸球体が正常なサイズを保てなくなり、濾過機能が破綻し始める初期の兆候です。
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2.レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 (RAAS) の活性化
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◦肥満、特に内臓脂肪の増加は、脂肪組織からアンジオテンシノーゲンなどの生理活性物質を分泌させ、RAASを活性化させます。
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◦RAASの活性化は、血管を収縮させ、血圧を上昇させるだけでなく、腎臓内の血管にも影響を与え、糸球体高血圧を引き起こし、腎臓にさらなる負荷をかけます。
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3.インスリン抵抗性と高インスリン血症
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◦肥満はインスリン抵抗性を引き起こし、血糖値を正常に保つためにインスリンが過剰に分泌される「高インスリン血症」を招きます。
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◦インスリンには血管拡張作用があり、腎臓の輸入細動脈を拡張させることで、糸球体過剰濾過をさらに悪化させることが示唆されています。また、インスリン抵抗性は血管内皮細胞の機能障害にも関与します。
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4.炎症と酸化ストレス
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◦肥満状態では、脂肪組織からTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)やIL-6(インターロイキン6)などの炎症性サイトカインや、レプチン、アディポネクチン(肥満患者では低下することが多い)などのアディポカインが異常に分泌されます。
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◦これらの炎症性物質は、全身性の慢性炎症を引き起こし、腎臓の組織にも直接的な障害を与えます。特に、糸球体の濾過バリアを構成するポドサイト(足細胞)の損傷を引き起こすことが知られています。
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酸化ストレスも、腎臓の細胞にダメージを与え、腎機能低下を促進します。
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5.脂肪細胞の異所性蓄積
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◦過剰な脂肪が腎臓の周囲や内部に蓄積することも、腎臓の機能に悪影響を与えると考えられています。
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肥満関連腎臓病の症状
肥満関連腎症は、初期には自覚症状がほとんどありません。病気が進行すると、以下のような特徴が見られます。
✅ 蛋白尿:最も特徴的な臨床所見です。尿中にタンパクが漏れ出る状態(蛋白尿)が見られます。ネフローゼ症候群レベルの多量の蛋白尿を示すこともありますが、軽度から中程度の蛋白尿で経過することも多いです。
✅ むくみ(腎機能低下による水分調整の異常)
✅ 疲労感(腎臓の働きが低下すると老廃物が体内に蓄積)
✅ 血尿の頻度は稀: 糖尿病性腎症などと比較して、血尿を伴うことは少ないです。
診断
確定診断には、腎生検が最も重要です。組織学的には以下の特徴が認められます。
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●糸球体肥大 : 糸球体が全体的に大きくなっています。
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●巣状分節性糸球体硬化症 : 糸球体の一部が硬化する病変で、肥満関連腎症にしばしば合併します。特に、糸球体の門部(血管が出入りする部分)に病変が集中することが多いとされています。
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●ポドサイト(足細胞)の損傷や減少。
鑑別診断としては、高血圧性腎硬化症、糖尿病性腎症、原発性FSGSなどが挙げられます。肥満関連腎症の診断には、高血圧や糖尿病による腎障害を十分に除外することが必要です。
予後と治療
肥満関連腎症は、適切な治療がされないと、進行性に腎機能が低下し、最終的には末期腎不全に至り、透析や腎移植が必要になる可能性があります。
治療の中心は、減量です。体重を減らすことで、腎臓への負担が軽減され、蛋白尿の減少や腎機能の改善が期待できます。
具体的な治療法としては、以下のようなものがあります。
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●食事療法: 低カロリーで栄養バランスの取れた食事を心がけます。塩分制限も重要です。
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●運動療法: 定期的な運動により、体重を減らし、インスリン抵抗性を改善します。
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●薬物療法:
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◦レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬やARB): 腎臓の血圧を下げ、蛋白尿を減少させる効果があります。
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◦SGLT2阻害薬: 血糖降下作用だけでなく、心血管・腎保護作用が注目されており、肥満関連腎症に対しても効果が期待されています。
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◦GLP-1受容体作動薬: 血糖降下作用と体重減少作用があり、腎保護効果も期待されています。
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◦その他、脂質異常症や高血圧に対する治療薬も併用されることがあります。
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➡GLP-1受容体作動薬(マンジャロ・リベルサス)・SGLT2阻害薬について
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●減量代謝改善手術(肥満外科手術): 高度肥満患者で、生活習慣の改善だけでは減量が難しい場合、選択肢となることがあります。
予防と改善方法
✅ 食事療法:塩分を控え、腎臓に優しい食事を心がける
✅ 運動療法:適度な運動で肥満を改善し、腎臓への負担を軽減
✅ 生活習慣の見直し:ストレス管理や十分な睡眠を確保する
肥満関連腎症の予防には、肥満そのものの予防・改善が最も重要です。バランスの取れた食事と適度な運動による適切な体重管理が不可欠です。
自覚症状がない段階で進行していることが多いため、定期的な健康診断、特に尿検査と血液検査を受けることが早期発見に繋がります。肥満がある場合は、積極的に腎機能のチェックを行うことが推奨されます。
肥満は全身の健康に大きな影響を与えるため、腎臓だけでなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患などの合併症も考慮し、総合的な管理が求められます。